バイヤーの図面には「35 mm スライド丁番、ソフトクローズ」とだけ書かれています。指示どおりドアに穴をあけ、コンテナを出荷し、3週間後に写真が返ってきます。隣のドアと干渉している、片側だけ 2 mm の隙間が開いている、カップ穴が表面まで膨らんでいる。図面に間違いは一つもありませんでした。ただ、足りていなかっただけです。スライド丁番の穴あけ寸法は5つの数字であり、「35 mm」はその1つ目にすぎません。
35 mm というのはドリルビットの径であって、丁番の仕様ではありません。ドアがきちんと閉まるかどうかは、残りの4つの数字が決めます。
スライド丁番の穴あけ寸法とは、正確には何を指すのか
スライド丁番の穴あけ寸法とは、丁番をドア側とキャビネット側のどこに加工するかを決める5つの寸法です。カップ径、カップ深さ、ドア端からの穴あけ距離、取付穴のピッチ、そしてドア高さ方向のカップ位置。どれか1つが欠けてもドアは取り付きます。ただ、収まりが出ないだけです。
| # | 数字 | 代表値 | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|---|
| 1 | カップ径 | 35 mm(穴径 35–35.1 mm) | ほぼ間違わない。誰もが必ず指定する数字 |
| 2 | カップ深さ | 13 mm(取付穴は 11.5 mm) | 薄いドアでは表面まで抜ける。浅すぎるとカップが浮く |
| 3 | 穴あけ距離(カップ外周からドア端まで) | メーカーにより 3–7 mm | かぶせ量が変わり、ドア間の隙間が狂う |
| 4 | 取付穴のピッチ | 45 mm ピッチ(Blum、Hettich)。48 mm と 52 mm も存在 | 丁番がねじ止めできず、現場で穴をあけ直すことになる |
| 5 | ドア高さ方向のカップ位置 | 上下端からカップ中心まで 76.2 mm(3 in) | ドアがねじれる。3つ目の丁番が使えない位置に来る |
カップ径とカップ深さは Decore が公開している穴あけ仕様によります。径 35 mm、カップ深さ 13 mm、取付穴をねじ止めではなく穴あけで処理する場合の深さは 11.5 mm です。
ここで3番目の数字が「どこから測った値なのか」に注意してください。穴あけ距離はカップ中心までの距離ではありません。ドア端と 35 mm 穴の外周との間に残る材の幅です。ここに 17.5 mm(カップの半分)を足せば中心距離になります。穴あけ距離 5 mm なら、カップ中心はドア端から 22.5 mm。この分野の争いの半分は、同じ穴を別々の基準点で語っている二人の間で起きています。
収まりを決めているのは、なぜ穴あけ距離なのか
5つのうち、バイヤーが指定するかぶせ量に応じて変わるのはこの数字だけであり、しかも図面から抜け落ちる確率が最も高い数字だからです。
メーカーが公開しているのは値ではなく範囲です。Blum の穴あけ距離は 125° 丁番で 3–6 mm、170° で 3–8 mm、Grass は 3–7 mm を公表しています。この範囲があるおかげで、金物を替えずにかぶせ量を調整できます。裏を返せば、その範囲内の1つの値を選んだ瞬間、ドアのかぶせ量は1通りに固定されます。
ここからが金額に響く部分です。穴あけ距離だけからかぶせ量を逆算することはできません。 かぶせ量は次の3つが同時に効いて決まります。
- 実際にあけた穴あけ距離
- 座金(マウンティングプレート)の高さ(フレーム式では 0 mm、3 mm、6 mm が一般的)
- 丁番の型番とアーム形状
座金の高さはかぶせ量にほぼ1対1で効きます。3 mm の座金を 0 mm に替えれば、同じ穴のままかぶせ量が約 3 mm 増えます。穴あけ距離もかぶせ量を動かしますが、すべての型番できれいに 1:1 になるわけではありません。だからこそ各メーカーは、共通の換算式ではなく丁番ごとの「穴あけ距離/かぶせ量」対応表を印刷しているのです。
輸出案件での実務的な帰結はこうです。バイヤーが希望のかぶせ量を指定してきた時点で、穴あけ距離を自由に選ぶ余地はありません。指定された丁番の対応表を読んでから穴をあけます。丁番の指定がないなら、それはパネルソーを回す前に確認すべき質問です。回した後ではありません。同じ基準点の問題は、受注のもう一段上、フルオーバーレイとハーフオーバーレイの違いでも起きます。同じ英語表現を読んだ2つの工場が、9.5 mm ずれた結果を出すことがあります。
ドア高さ方向のどこにカップを置くか
標準は、ドアの上端・下端からカップ中心まで 76.2 mm(3 in)です。Decore は 2 in と 4 in のパターンも掲載しています。背の高いドアやガラス扉では、丁番を標準線から動かす必要があるためです。
| ドア高さ | 1枚あたりの丁番数 | カップ位置の目安(中心まで) |
|---|---|---|
| 900 mm まで | 2 | 上下端から 76 mm |
| 900–1,600 mm | 3 | 上下端から 76 mm + 中央または棚板ラインに1つ |
| 1,600–2,100 mm | 4 | 上下端から 76 mm + 等間隔に2つ |
| 2,100 mm 超 | 5 | 上下端から 76 mm + 等間隔に3つ |
中間の丁番は、上下端の2つほど荷重を負担していません。背の高いドアの反りを止めるためにあります。ここから2つのことが導けます。1つ目、位置の厳密さは端の2つほど問われないので、棚板や幕板と干渉するなら中間側で妥協します。2つ目、それでも座金には載らなければならず、つまりキャビネット側にその位置の穴が必要です。ここで、この仕様のもう半分、ドアではなく箱体側の話になります。
キャビネット側に必要な穴は何か
ここまではすべてドア側の話です。キャビネット側は別の穴パターンで、ヨーロッパ式の箱組みでは 32 mm システムに従います。5 mm の穴を 32 mm ピッチで縦一列に並べ、前端から一定距離セットバックさせます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| システム穴の径 | 5 mm |
| 縦方向のピッチ(中心間) | 32 mm |
| 前端からのセットバック(前列) | 37 mm |
| このセットバックが兼ねる用途 | 丁番の座金、棚ダボ、引き出しスライドの取付 |
37 mm のセットバックがあるからこそ、一列の穴が壁面ユニットでは丁番の座金を、ベースユニットでは引き出しスライドを受けられます。Euro 32 穴あけシステムにおける共通の基準です。自社ラインが 37 mm であけていて、バイヤーの金物もそれを前提にしていれば、座金はそのまま載ります。「昔からこうだから」という理由で 32 mm や 35 mm であけていると、座金ごとにビス位置が変わり、そのことをバイヤーの組立担当が現場で知ることになります。
当たり前だと思っていても、図面に明記する価値があります。コンテナに積まれるまで誰にも検証されずに残る思い込みとして、これが最も多いからです。
框はどこまで細くできるか
標準的な 35 mm カップの場合、公表されている最小の框幅は、板ドアで 1-3/4 in(44.5 mm)。ガラス扉ではさらに広くなります。
| ドア種別 | 最小の框幅 |
|---|---|
| 鏡板入りのドア | 44.5 mm(1-3/4 in) |
| ガラス扉 | 55.6 mm(2-3/16 in) |
| 格子入りガラス+ゴム押さえ | 63.5 mm(2-1/2 in) |
計算すれば理由がわかります。35 mm のカップに 3 mm の穴あけ距離を足すと、ドア端から 38 mm を使い切ります。44.5 mm の框なら、穴の向こう側に残る材はわずか 6.5 mm。これより細くすると、鏡板の溝を掘ることになります。
この失敗の出方は派手ではありません。湿ったコンテナで2週間過ごしたあとに開く髪の毛ほどの割れが、QC が写真を撮らなかった内側の面に出るだけです。
13 mm カップに必要なドア厚は
18 mm のドアに 13 mm のカップを掘ると、表面側に残るのは 5 mm。16 mm のドアなら 3 mm しか残りません。輸出向けキャビネットの多くが 18–19 mm のドアで組まれているのはこのためで、薄いドアの案件では、標準カップを浅く掘るのではなく、その厚みに対応した丁番を選ぶ必要があります。
メーカーを問わず成り立つルールが3つあります。
- 薄いドアを救うために掘り込み深さを浅くしないでください。 カップは全深さで座ることで荷重を伝えます。浅いカップは、バイヤーが必ず到達する程度のソフトクローズ開閉回数で抜けます。
- 対応ドア厚はカタログ写真ではなく丁番のデータシートで確認してください。 きちんと印刷されていますし、同じメーカー内でも型番によって違います。
- 同じ厚みでも、突板貼り MDF のドアと無垢材のドアは別物です。 無垢材は動きますが、MDF のカップ周りの肉厚は均一です。バイヤーが途中で基材を変更するなら、掘り込みを検証し直してください。
バイヤーに送る図面に実際に載せるべきもの
10回のうち9回、これは加工の問題ではなく書類の問題です。工場はどの数字にも合わせられます。どの数字なのかを伝えられていなかっただけです。
議論を終わらせる図面は、5つの数字すべてを、基準点を明記したうえで、下の段落の文章ではなく画像そのものの上に寸法として持っています。
- カップ径とカップ深さを、カップの位置で引き出し表示(35 mm ⌀ × 深さ 13 mm)
- 穴あけ距離をドア端からカップ外周までの寸法で表示し、基準点を文字で明記
- カップ中心距離も併記し、両方の流儀に対応(穴あけ距離 + 17.5 mm)
- 取付穴のピッチ(45 / 48 / 52 mm)と、穴あけかねじ止めかの区別
- ドア高さ方向のカップ位置を、上下端からカップ中心までの寸法で表示
- キャビネット側:5 mm システム穴、32 mm ピッチ、37 mm セットバック、および1つ目の穴の基準を明記
- その数字の出どころとなった丁番のメーカーと型番
- 掘り込みを検証したドア厚と框幅
最後の1行は見た目以上に効きます。寸法の出どころとなった丁番を明記しておけば、別の金物を使うバイヤーが自分で互換性を確認できます。思い込んだまま組立時に気づく、という流れを断てます。
ツールの話も率直に書いておきます。この図面には、写真や立面図の実際の形状に紐づいた実測寸法が、それぞれの数字が属する位置に載っていなければなりません。これは製品写真のレタッチとは別の作業ですし、AI 画像生成とはさらに違う作業です。生成モデルは、一度も測っていないドアの上に自信たっぷりの「22.5 mm」を書き込みます。もっともらしく、きれいに描画され、そしてドアを吊るまでバイヤーには見抜けない形で間違っています。寸法は実際のエッジにスナップさせ、基準点は言葉でラベルし、そのうえでバイヤーのカタログやプラットフォームが要求するサイズで書き出します。壁面キャビネットの仕様図の例を見ると、出品サイズで実際に読める情報密度がわかります。疑問に答えるだけの数字を載せ、ドアが見えなくなるほどは載せない、という密度です。
SKU ごとに1時間かける根拠が欲しければ、やらなかった場合の金額を出してみてください。穴あけ距離を間違えたドアがコンテナ1本分あれば、全数作り直しです。返品コスト計算ツールを使えば、避けられたはずの手直し1サイクルが受注の利益をどれだけ削るかが数字になります。
よくある質問
スライド丁番の穴は何 mm であけますか
径 35 mm、深さ 13 mm。取付穴をねじ止めではなく穴あけにする場合は深さ 11.5 mm です。穴径の公差は厳しく 35–35.1 mm です。最近のシステムではカップがすきまばめではなく圧入だからです。
カップ穴はドア端からどれくらい離すべきですか
メーカーにより 3〜7 mm。測るのはドア端からカップの外周までで、中心までではありません。Blum は 125° 丁番で 3–6 mm、170° で 3–8 mm を公表しています。中心距離が必要なら 17.5 mm を足します。穴あけ距離 5 mm なら、カップ中心はドア端から 22.5 mm です。
スライド丁番はすべて 35 mm カップですか
フルサイズのヨーロッパ式丁番はほぼすべて 35 mm ですが、そのカップ周りの取付穴ピッチは異なります。Blum と Hettich は 45 mm ピッチで共通、Salice や Grass の一部は 48 mm または 52 mm です。コンパクト丁番やミニ丁番は 26 mm カップを使います。つまり「35 mm 丁番」という指定は候補を絞りはしても、穴を確定させません。
キャビネット製作でいう 37 mm セットバックとは
側板の前端から、32 mm システム穴の前列中心までの距離です。丁番の座金、棚ダボ、引き出しスライドの取付に共通する基準であり、だからこそ 5 mm 穴を 32 mm ピッチで並べた一列が3つの用途を兼ねられます。
穴あけ距離からかぶせ量に換算するには
換算するのではなく、表を引きます。かぶせ量は穴あけ距離・座金の高さ・丁番の型番の3つで決まり、各メーカーがまさにその理由から丁番ごとの「穴あけ距離/かぶせ量」対応表を公開しています。座金の高さはほぼ 1:1 で効き(0 mm の座金は 3 mm の座金よりおよそ 3 mm 増える)、穴あけ距離も効きますが型番によって効き方が違います。バイヤーがかぶせ量を指定しているなら、その丁番の表を読んでから穴をあけてください。そもそもバイヤーの言うかぶせ量が曖昧だった理由を知りたい場合、たいていはフレーム式かフレームレスかの問題であり、同じ罠はキャビネットの標準寸法を見積もるときにも現れます。
