部品が5個届きます。どれを測っても公差内に入っています。ところが組み付けると、組立体は 4 mm ずれていて閉まりません。誰も不良品を作っていないのに、手元にあるのは不良の製品です。これが寸法公差の累積を一段落で説明したもので、「部品は全数チェックしました」と「組み付けられます」が同じ意味ではない理由でもあります。
寸法公差の累積とは、各部品の公差と部品間のすきまによって組立体に積み上がっていく偏差のことです。単品の公差は一つの寸法についての約束であり、公差の累積は誰も図面に描いていない寸法についての予測です。
公差・はめあい・公差の累積は別物です
| 用語 | 何を規制するか | 誰が持つか | よくある間違い |
|---|---|---|---|
| 公差 | 一つの部品の一つの寸法 | 部品図 | 部品ごとに公差を締めれば組立も締まると思い込む |
| はめあい | 相手部品との関係 | 単品ではなく「対」が持つ | どの材料状態でのすきまかを言わずに数値だけ出す |
| 公差の累積 | 部品とすきまが連なる寸法連鎖に沿ったばらつきの合計 | 組立図——その組立図がそもそも存在しないことが多い | 誰も持たないので、誰も検算しない |
| 普通公差 | 個別に公差指示のないすべての寸法 | 表題欄 | 普通公差を「無視できるほど小さい」と扱う |
最後の行が、輸出トラブルの大半の出発点です。表題欄の普通公差は数十の寸法に黙って効いてきますし、数十リンクの寸法連鎖の中ではまったく小さくありません。
最悪値積み上げ vs 二乗和平方根(RSS):同じ問いへの二つの答え
公差の足し方には標準的な方法が二つあり、出てくる数字は大きく違います。
**最悪値積み上げ(ワーストケース)**は、すべての部品が同時に最も不利な限界に来ると仮定し、公差を算術的に足します。
**二乗和平方根(RSS)**は、各部品が公差の中央付近で独立にばらつくため極値はめったに重ならないと仮定し、公差の二乗和の平方根を取ります。
| 連鎖 | 最悪値 | RSS | 比 |
|---|---|---|---|
| ±0.1 mm の部品5個 | ±0.5 mm | ±0.224 mm | 2.2× |
| ±0.5 mm の部品5個 | ±2.5 mm | ±1.118 mm | 2.2× |
| ±2 mm のキャビネット4台 | ±8 mm | ±4 mm | 2× |
| ±0.2 mm の部品10個 | ±2.0 mm | ±0.632 mm | 3.2× |
連鎖が長くなるほど差は開きます。つまり長い組立ほど手法を切り替えたくなり、そして長い組立ほど切り替えが危険だということです。
どちらをいつ使うか
最悪値を使う場面は、連鎖が短いとき、組み付かなかった結果がコンテナ1本の受取拒否になるとき、部品が複数のサプライヤーから来るとき、そして工程データを何も持っていないときです。バイヤーに提示するのは最悪値です。それは確率ではなく保証だからです。
RSS を使う場面は、工程が自社の手の内にあり、部品が実際に公差の中央に寄っていることを実測分布で確認していて、わずかな不適合率を受け入れられるときです。RSS は生産計画の道具であって、約束ではありません。
RSS の壊れ方は具体的で、名指しする価値があります。RSS は中央寄り・独立・正規分布のばらつきを前提にしています。工具が摩耗しているサプライヤーは公差帯の片側に安定して寄り続け、その癖が統計的前提をそのまま作り話に変えます。実測していないサプライヤーに RSS を当てるのは、計算ではなく楽観です。
ISO 2768 の落とし穴:半分はもう存在しません
表題欄に「ISO 2768-mK」と書かれた図面はいまだにたくさんあります。これについて知っておく価値のあることが二つあります。
ISO 2768-1(長さ寸法と角度寸法の普通公差、等級 f / m / c / v)は現行です。2022 年に見直され有効が確認されており、統合改訂版が出る見込みです。
ISO 2768-2(普通幾何公差——mK の「K」の部分)は廃止され、ISO 22081:2021 に置き換わりました。しかも ISO 22081 は考え方そのものを変えています。普通幾何公差をどう指示するかのルールは与えますが、数値表は与えません。普通幾何公差は自分で数値を指示し、あわせてデータム系も指示する必要があります。
実務上の帰結はこうです。「ISO 2768-mK」と書いた図面は、幾何側について廃止された規格を引用しています。そして「ISO 22081」とだけ書いて数値を示さない図面は、何も規定していません。どちらも軽い図面確認は通りますが、本物のクレームには耐えません。
公差の累積が刺さるのは機械加工屋ではなくサプライヤーです
公差の累積は機械加工の話題として教えられます。だからこそ家具・建材・包装のサプライヤーが引っかかります。
キャビネットやワードローブの連結。 600 mm のユニット4台がそれぞれ ±2 mm なら最悪値で ±8 mm、しかも壁の開口にも公差があります。「全部規格内でした」という施工トラブルで最も多いのがこれです。
ドアと枠。 扉の公差、枠の公差、丁番位置の公差、さらにパッキンの圧縮代。一つひとつは些細ですが、その合計が夏にドアが擦るかどうかを決めます。
ノックダウン家具の穴列。 32 mm システムホールのピッチ公差が10個分繰り返されれば、10リンクの連鎖です。板が合わなくなるのは決まって10番目の穴です。
包装とコンテナ。 製品、緩衝材、内箱、外箱、パレットのはみ出し。公差はどれも緩く、連鎖は長く、そして最後の一列がコンテナに入らない段階で初めて表面化します。1箱あたり「たった 3 mm」がパレット1枚分の積載位置を失わせるのもここです。
この四つをまとめて防ぐ測定の作法は、スペック画像を信頼できるものにする作法と同じです。効いてくる寸法、その公差、そしてどこを基準に測ったのかを明記することです。土台の数字が怪しければ、下流はすべてその怪しさを引き継ぎます。最初に狂う場所については呼び寸法と実寸法を、累積を把握したうえで確保すべきすきまについては設置クリアランス寸法をご覧ください。
次にやること
- 計算する前に連鎖を描いてください。 気にしている二つの面の間にある部品とすきまを、方向の符号付きで全部並べます。公差累積のミスの大半は算術ミスではなく、連鎖の定義ミスです。
- バイヤーには最悪値を提示し、社内計画は RSS で立ててください。 逆は絶対にやってはいけません。
- 表題欄を直してください。 「ISO 2768-mK」を、ISO 2768-1 の等級と、明示した ISO 22081 の普通幾何公差およびデータム系に置き換えます。
- 効いてくる寸法とその公差は、表だけでなく画像にも載せてください。 どの面から測った寸法かが分かる工業スペック図は、メールの言い合いでは決着しない曖昧さを取り除きます。ただしそれは、注記が実際のエッジに固定された実測値を持っている場合に限ります。レンダリング画像や AI 生成画像の横に打ち込んだ数字は、コンテナの中の部品について何も証明しません。
- 新規サプライヤーには能力の主張ではなく実測データを求めてください。 部品20個とノギスがあれば、公差帯の中央に寄っているのか片側に貼り付いているのかは十分に見えます。
よくある質問
寸法公差の累積とは何ですか。
組立体の中で、部品とすきまが連なる連鎖に沿って積み上がるばらつきのことです。偏差が連鎖に沿って足し合わされるため、各部品が自分の公差内でも組立体は公差外になり得ます。
寸法公差の累積はどう計算しますか。
気にしている二つの面の間の寸法連鎖を定義し、公差を算術的に足す(最悪値)か、二乗和の平方根を取る(RSS)かのどちらかです。±0.1 mm の部品5個なら、最悪値で ±0.5 mm、RSS で ±0.224 mm になります。
最悪値と RSS はどちらが優れていますか。
どちらが優れているというものではなく、答えている問いが違います。最悪値は保証であり、バイヤーへの約束に載せるものです。RSS は確率であり、社内の生産計画に載せるもので、しかも実測分布で裏づけがあるときに限られます。
ISO 2768 はまだ有効ですか。
長さ寸法と角度寸法の普通公差を扱う ISO 2768-1 は現行で、2022 年に有効が再確認されています。普通幾何公差を扱う ISO 2768-2 は ISO 22081:2021 に置き換わり、こちらは数値表ではなくルールを与えるものです。したがって現代の図面の「ISO 2768-mK」は半分が廃止された表記です。
部品は全数合格なのに、なぜ組立が不合格になるのですか。
検査は部品を部品公差に照らして見ているだけで、連鎖を誰も見ていないからです。合わせる必要のある二つの面の間の経路に沿って公差を足してください。最悪値の合計が使えるすきまを超えていれば、その組立は一定割合で失敗するように設計されていたことになります。
