IP68 と IP66 は決着済みの話に見えます。8 は 6 より大きいのだから、ラベルには IP68 と刷っておけば安全だろう、と。実際は違います。IP68 と表示された筐体が水槽で 30 分沈んでいられても、客先がホースで水をかけた最初の一回で浸水することがあります。IEC 60529 では、第二特性数字の防水試験は 6 を超えると累積しなくなるからです。
規格が言っていることと、買い手が言っていると思い込んでいることのあいだにあるこの隙間から、保証クレームも、受入検査の不合格も、盛りすぎた「防水」の商品説明も生まれます。以下では、あなたの IP 等級が勝手に代弁している五つの主張と、規格の実際の記述、そして仕様書に書くべき内容を整理します。
IP68 と IP66 の違い:第二特性数字が実際に保証するもの
IEC 60529 が定める IP コードは 2 桁の特性数字です。1 桁目は固形物と粉じんに対する保護(0–6)、2 桁目は水に対する保護(0–9)。それぞれの数字は特定の試験 1 種類に対応しており、漠然とした品質レベルを表すものではありません。
1 桁目は累積します。IP6X(防じん形)に合格した筐体は、IP5X、IP4X 以下を自動的に満たします。試験の厳しさが単調に上がっていくためです。
2 桁目が累積するのは6 までだけです。数字 7、8、9 は別系統の試験であり、そのいずれかに合格しても、下位の数字については何も語りません。
| 2 桁目 | 試験 | カバーしないもの |
|---|---|---|
| 3 | 散水、鉛直から 60° まで | 噴流、水没 |
| 4 | 全方向からの飛まつ | 噴流、水没 |
| 5 | 噴流、6.3 mm ノズル、12.5 L/min、3 m | 強い噴流、水没 |
| 6 | 強い噴流、12.5 mm ノズル、100 L/min、約 2.5–3 m | 水没 |
| 7 | 水没、1 m、30 min | 噴流・散水試験(5、6)のすべて |
| 8 | 7 より深いか長い水没、条件は買い手との合意による | 噴流・散水試験(5、6)のすべて |
| 9 | 高圧・高温の噴流(約 80 °C、80–100 bar) | 水没 |
右の列を二度読んでください。**IP68 の筐体は噴流試験を一度も受けておらず、IP66 の筐体は水中で試験されたことが一度もありません。**同じはしごの上下二段ではなく、別々のはしごです。
主張 1:「IP68 は IP66 より上」
脅威がたまり水である場合に限って正しい話です。脅威が高圧洗浄機、壁掛けボックスに吹きつける横なぐりの雨、岸壁での洗浄作業であれば、実際にそれを試験したのは IP66 のほうで、IP68 はその点について何も言っていません。
これは例外的なケースではありません。屋外照明、EV 充電設備の筐体、船舶用金物、食品加工設備、屋外カメラは、水没するよりも噴流で洗われる回数のほうが圧倒的に多い製品です。スペックを強く見せるために製品を IP66 から IP68 へ「格上げ」した供給者は、書類の上では、客先が唯一気にしていた試験を格下げしたことになります。
正しいやり方は併記です。両系統に合格した筐体は IP66/IP68 と、スラッシュで区切って表示します。データシートに IP67 や IP68 が単独で書かれていて、販売文には「高圧洗浄に耐えます」とある場合、この二つは矛盾しており、試験報告書はラベルの側につきます。
主張 2:「IP68 は既知の深さまで防水という意味」
IP68 それ自体は深さも時間も規定していません。IEC 60529 は数字 7 の試験を 1 m・30 分と固定していますが、数字 8 については「数字 7 より過酷な条件」とだけ述べ、実際の深さと時間は製造業者と使用者の合意によるとしています。
つまり IP68 は 1.5 m で 60 分でも、3 m で 30 分でも、10 m で 1 時間でも、正当に成立します。3 社が全員 IP68 と刷り、全員が正直なまま、まったく違う製品を売ることができるわけです。条件が書かれていない等級は仕様ではなく、ただの主張です。
規格が読まれることを想定している形で書いてください。
IP68 —— IEC 60529:2013 に基づき 2 m・60 分で試験、報告書番号 XXXX、2026-03-11 付。
深さ、時間、規格の版、報告書番号、日付。買い手の品質保証部門がこの数字を受け入れるのに必要なものが全部そろい、追加のメールが飛んでこなくなります。
主張 3:「IP67 なら雨も洗浄もカバーできる」
雨は数字 3 か 4、洗浄は 5、6 か 9、水没は 7 か 8 です。IP67 の製品は、規定された姿勢での静水中の水没試験に合格しただけで、水に関してはそれ以外に何も通っていません。
実務では IP67 の機器が雨に耐えてしまうことは多いです。水没に耐えるほど密封された筐体は、たいてい散水にも耐えるからです。問題は「たいてい」という言葉で、フィールドからの返品で繰り返し出てくる次の 2 つの状況では、その前提が崩れます。
- **圧力による浸入。**水没がかけるのは一様な静水圧で、1 m でおよそ 0.1 bar です。噴流がかけるのは局所的で方向を持った荷重で、パッキンのリップを変形させたり、ケーブルグランドの隙間から水を押し込んだりします。同じシールが片方に合格し、もう片方で落ちます。
- **姿勢。**水没試験は決められた姿勢で行います。噴流試験はあらゆる方向から来ます。水槽では水の通り道になりようがなかった水抜き経路や通気膜にも、下から吹き上げます。
主張 4:「IP69K と IP69 は同じ等級」
出典が違います。IP69K はドイツの自動車規格 DIN 40050-9 に由来し、のちに路上走行車両向けの ISO 20653 に取り込まれました。IEC 60529:2013 は高圧・高温の噴流に対して独自の数字 9 を追加しており、そのため K の付かない IP69 が出回っています。
試験そのものはどちらも過酷です。約 80 °C の水を 80–100 bar で 4 方向から当て、その間ターンテーブルで部品を回転させます。買い手の仕様書が IP69K で、手元の報告書が IEC 60529 の IP69 なら、それは書類の不一致であり、出荷後ではなく出荷前に片づける価値があります。中国向けに輸出する場合は、対応する国内規格 GB/T 4208-2017 が数字 9 を含めて IEC 60529:2013 を採用している点に注意してください。中国と IEC の番号は一致しており、どちらも IP69K ではありません。
主張 5:「等級は製品に属する」
等級が属するのは特定の構成における筐体の、試験を受けたその時点です。それを変える要素は 4 つあり、2 桁のコードにはどれも表れません。
- **嵌合の状態。**嵌合時に IP67 のコネクタが、非嵌合では IP20 ということがよくあります。防塵キャップが同梱されるなら、そのキャップも等級の一部です。
- **取付姿勢。**水抜き穴、通気膜、ケーブル引込口は、試験が前提とした姿勢でしか機能しません。上下逆に取り付ければ等級は無効です。
- **ケーブルグランドのサイズ。**8–12 mm のケーブル用に認証されたグランドは、6 mm のケーブルを密封しません。適用範囲外のケーブルは、作りのよい産業用ボックスでも最も多い現場不具合の一つです。
- **使用年数。**エラストマーのパッキンは圧縮永久ひずみを起こします。等級が語るのは新品であって、2 年の熱サイクルを経た個体ではありません。
仕様書に書くべきこと
コードが情報を圧縮して捨ててしまうため、買い手は足りない部分を質問で復元しようとします。しかも見積依頼のたびに、毎回です。それを止める方法は、シールの説明を文章ではなく図面に載せることです。
密封筐体の仕様図は、図枠の隅に等級とその試験根拠を持たせ、そのうえで主張を裏づける寸法を形状の上に引き出します。
- パッキン溝の幅と深さ(mm)
- ケーブルグランドのねじ呼びと、適合するケーブル外径の範囲(M20 × 1.5、6–12 mm)
- 水抜き穴と通気口の位置、およびそれらが前提とする取付姿勢
- 蓋の締付トルク。トルク不足の蓋は、試験していない蓋と同じだからです
- 筐体上の各コネクタの、嵌合時と非嵌合時の等級
これらはすべて寸法です。つまり推定ではなく実測しなければなりません。カタログの作図が静かに破綻するのはここです。画像生成ツールはもっともらしいグランドの引き出し線を喜んで描きますが、あなたの溝の深さは知りません。買い手がその作られた数値どおりに相手部品を加工すれば、ロットごと返ってきます。実測値を写真やレンダリングに固定する作業——寸法線を実際のエッジにスナップさせ、文字を入れ、買い手のプラットフォームが求めるサイズで書き出す——は、絵をきれいにする作業とは別物で、受入検査を通るのは前者です。金属製品の仕様を表示するときも、産業用の仕様図を作るときも、考え方は同じです。
出荷前 IP 表示チェックリスト
- ラベルの等級が試験報告書と完全に一致している(スラッシュ併記の二重等級も含む)
- IP68 または IPX8 を掲げる場合、データシートに深さと時間を明記している
- 規格の版を引用している(IEC 60529:2013、中国向けは GB/T 4208-2017)
- 販売文に、第二特性数字がカバーしない防水表現が混ざっていない
- コネクタの等級を嵌合時・非嵌合時の両方で記載している
- 試験が前提とする取付姿勢を図面に示している
- ケーブルグランドの適合ケーブル外径範囲を、ねじ呼びの隣に印刷している
- IP69K と IP69 の表記が、買い手の指定した文書と一致している
商品ページの主張が試験報告書のどの行にもたどり着けないなら、その一文は消してください。IP 等級は、税関の担当者もマーケットプレイスの審査ボットも返品してきた顧客も、同じ書類で照合できる数少ないマーケティング数値です。だからこそ、盛ったときに最も簡単に見つかる数値でもあります。同種の表示の落とし穴は、輸出先市場ごとのプラグ形状と電圧でも同じ形で現れます。
よくある質問
IP68 は防水ですか?
IP68 は、1 m・30 分よりも過酷な水没試験に、製造業者と買い手が合意した条件で合格したという意味です。万能の「防水」保証ではなく、深さは固定されておらず、噴流や高圧洗浄への耐性を証明するものでもありません。
IP65 と IP67 の違いは何ですか?
IP65 は防じん形に加えて、6.3 mm ノズルから 12.5 L/min の噴流に耐えることです。IP67 は防じん形に加えて、1 m・30 分の水没に耐えることです。どちらも他方を含みません。IP65 の製品は試験で沈められたことがなく、IP67 の製品は噴流を受けたことがありません。両方が必要な製品には IP65/IP67 のように二つの等級を表示します。
IP68 に合格していれば IP66 を名乗れますか?
名乗れません。第二特性数字が累積するのは 6 までなので、数字 8 の水没試験に合格しても、数字 5 や 6 の噴流試験への適合を示したことにはなりません。IP66 を名乗るには IPX6 試験を実施して報告書を持つ必要があり、その後は IP66/IP68 と表示します。
IP 等級は塩水噴霧や腐食もカバーしますか?
しません。IEC 60529 が扱うのは固形物、粉じん、水だけです。耐食性は別の評価項目で、通常は ISO 9227 または ASTM B117 による中性塩水噴霧試験で確認し、データシートに別途記載しなければなりません。これは IP コードと NEMA の筐体タイプが置き換えられない理由の一つでもあります。NEMA のタイプには腐食と着氷の基準が含まれるからです。
IP 等級は製品図面にどう書けばよいですか?
表題欄か専用の注記に、規格の版、試験報告書番号、そして数字 8 なら深さと時間を添えて記載します。そのうえで、等級が依存している物理的な特徴——パッキン溝の寸法、グランドのねじ呼びとケーブル外径範囲、水抜き穴と通気口の位置、蓋の締付トルク——を寸法として示せば、買い手は 2 桁のコードを信じるのではなく、形状から主張を検証できます。
